岩井俊二監督による伝説的なドラマ「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」。
川村元気プロデューサーもそのファンのひとりで、かねてから新しいアニメーション映画の企画を考えていた中で思い立ったのが、「打ち上げ花火~」を長編アニメーション化するというものだった。アニメーションにふさわしいのは実写化が難しい題材。「打ち上げ花火~」を実写で作り直すとしても、ドラマで描かれた少年少女の輝き、特にヒロインの美しさを取り戻すことはできない。やれるとしたら、アニメーションしかない─。岩井に許可を取ったのが2013年。その際に岩井から脚本家として提案され、川村もまた白羽の矢を立てていたのが、ドラマ「モテキ」(10)で「打ち上げ花火~」のオマージュを手掛けていた大根仁だ。一方で、「魔法少女まどか☆マギカ」(11)や「化物語」(09)をはじめとした〈物語〉シリーズの圧倒的な美術センスと斬新な演出に打たれ、いつか仕事をしてみたいと川村が思っていたのが、アニメーションスタジオ・シャフトと、そのシャフトと共に数々の傑作を生み出していた新房昭之監督。その相談の際にすでに持参していたのが、『打ち上げ花火~』の企画書だ。「“もしも”の世界をアニメーションならではの手法と演出で描くのは、新房監督が最も得意とするところ。その中で岩井さんからいただいた“繰り返し”というアイデアを大根さんが広げてくれて、新房さんの作品性やシャフトの美術的な面白さもさらに活かせる形になりました。お三方はそれぞれの作品のファンでもあって、お互いリスペクトしている関係。僕は映画をどう作るか以前に、“映画の作り方”を作りたいと常々思っているんですが、今回はもしも3人の映画監督がアニメーションを作ったらどうなるんだという化学変化の楽しみがすごくある作品になったと思います」(川村P)。
キャラクターデザインを手掛けるのは、「The Soul Taker~魂狩~」(01)や〈物語〉シリーズで新房と組んできている渡辺明夫。尖った個性がありながら、メジャー感があるというのが製作陣の評価。特に愛らしい少女から妖艶な女性まで、女性キャラクターを描くことに定評がある描き手だ。新房とのタッグということとあわせ、ヒロイン・なずなを描き出せるのはこの人しかいないと製作陣が熱望したスタッフィング。実際、渡辺が描いたなずなは、あどけないかわいらしさに加えて小悪魔的な色香も備わっていて、まさにアニメーションでしか描き直せなかったヒロインの姿がそこにある。そして監督を務めるのは、ジブリ作品やシャフト作品に数多く参加している武内宣之。新房とは〈物語〉シリーズのビジュアルディレクションや美術設定でも組んでおり、今回も観る者の目を見張る世界観と物語を描き出している。また、音楽を担当しているのは、「涼宮ハルヒの憂鬱」(06)や〈物語〉シリーズの神前暁。現代音楽の要素とアニソンの要素を併せ持つ音楽家ということでオファーとなったが、奇しくも監督の武内も、そして神前も岩井作品のもとよりのファン。武内のほか製作スタッフにもファンは多く、なずなが母に連れ戻されるシーンは、原作そのままのアングルとカット割りとなっている。音楽に関しても、岩井作品の音楽のファンでもあったという神前が、そこに対するリスペクトも踏まえながら、また新しいアニメーション映画としての音楽を追求している。加えて、シャフトの二大看板である「魔法少女まどか☆マギカ」と〈物語〉シリーズに集った才能が、同じ新房総監督のもと本作で集結し、新たな挑戦を見せているというのもアニメファンにとっては大きな見どころだ。
声の出演には豪華な声優陣とあわせ、旬の俳優陣を起用。プロの声優で固めるという考えもあった中で、今回は原作にある素朴さやリアルさを取り入れたいということから、フレッシュで感性豊かなキャストが新たな『打ち上げ花火~』の世界観を作り出している。なずなを演じるのは、細田守監督作品『バケモノの子』(15)でもヒロイン役を務めた広瀬すず。少女性もありながら、どこか色気を感じさせるなずなの危うい雰囲気を表現できるのは彼女しかいないということでの抜擢となった。「広瀬さんはいい意味で不安定な魅力があって、声に儚さを感じさせてくれる。そこも俳優ならではだと思います」(川村P)。典道を演じるのは、声優初挑戦となる菅田将暉。今や若手俳優の代表格と言える存在だが、起用を考えられていたのはまだここまでの大ブレイクを見せる前の時期。声優初挑戦ということで、まずは声のサンプルを送ってもらっての決定となった。「ある意味ではオーディションみたいな形だったんですが、最初から菅田さんでぜひと思っていたんです。典道はいわゆるアニメ文脈のナイーブな男子ではなくて、ちょっとやんちゃでぶっきらぼうな田舎の男子。菅田さんの持つナイーブさや不良感みたいなものがぴったりだなと」(川村P)。また、そのふたりを引き上げてくれたと新房総監督も絶賛するのが、人気・実力共に声優界をリードする祐介役の宮野真守。広瀬や菅田の俳優ならではの自然な演技と、声優である宮野の巧みな表現が三人の絶妙な掛け合いと空気感を生んでいる。また、なずなの母を演じるのは、『アナと雪の女王』(14)以来の声の出演となる松たか子。岩井監督作品『四月物語』(98)でヒロインを務めた松が、また新たな形で岩井ワールドに参加している。
神前暁の劇伴とあわせて注目なのが、挿入歌と主題歌。原作ドラマで印象的に流れていた楽曲「Forever Friends」が今回の作品でも挿入歌として使用されている。同曲はドラマのオリジナルソングとして音楽を担当したREMEDIOSが書き下ろして歌ったもの。本作でも当初より同曲を使用することは決まっていたが、また新たなものとして、これを誰が歌ったら面白いのか。その中で製作陣から名前が挙がったのが、注目の女性ラッパー・DAOKO。中島哲也監督『渇き。』(14)の挿入歌や庵野秀明率いるスタジオカラーによる日本アニメ(ーター)見本市「ME!ME!ME!」の音楽をTeddyLoidと共に担当するなど、今最もクリエイターに愛されるアーティスト。「Forever Friends」が、DAOKOの包み込むような歌声で作品のクライマックスを盛り上げる一方、主題歌をプロデュースしたのは音楽シーンで圧倒的な存在感を放つ米津玄師。“DAOKO×米津玄師”として、劇中のなずなと典道を思わせる、男女の掛け合いが印象的な名曲「打上花火」が誕生した。製作陣のコラボレーションとあわせ、音楽面のかつてないコラボレーションというのも本作ならでは。懐かしい楽曲が新しく、新しい楽曲が懐かしく耳に響く。また、劇中でなずな=広瀬すずが、母親がよく歌っていて覚えた曲として、80年代アイドルの名曲を口ずさむシーンもある。
同シーンのため、広瀬はレコーディングにも初挑戦。この曲自体も物語のポイントとなっていて、そこからファンタジックな情景が展開されていく。その歌声と曲から広がる世界にぜひ耳をそばだて、目を見開いて欲しい。